レッドライトセラピー(赤色光療法)は、いつ、どこから始まった研究なのでしょうか。光を体の中で受け取るものは何か、というしくみの話はレッドライトセラピーとは何かにまとめました。この記事でたどるのは、この分野がどう始まり、どう呼ばれ、いまどこまで調べられてきたのか、という時間の流れです。

1967年、ブダペストの実験室で

はじめに断っておきます。この節の内容は、メスター自身が書いた論文ではなく、後年の総説による紹介にもとづいています。

レーザーという道具が世に出たのは1960年代の初めです。Chung らが2012年にまとめた総説によれば、1960年にルビーレーザー、1961年にヘリウム-ネオン(HeNe)レーザーが発明され、低レベルレーザー療法(LLLT)はその直後にいまの形になったとされています[Chung 2012]。

同じ総説には、次のような話が紹介されています。1967年、ハンガリー・ブダペストのセンメルワイス大学で、エンドレ・メスター(Endre Mester)が研究していました。毛を剃ったマウスの背中にレーザー光を当てたところ、剃った部分の毛が、剃っていないマウスよりも早く生え揃いました。メスターはその違いに気づいた、と書かれています[Chung 2012]。

ひとつ注意があります。この実験がもともと何を目的にしていたのかは、ここで根拠にしている総説からはわかりません。実験の動機が語られることはありますが、この総説が書いているのは「毛の生え方に違いがあった」という観察までです。確かめられることを超えないよう、話はここで止めておきます。

同じ総説には、メスターが HeNe レーザーで、マウスの創傷治癒(傷がふさがっていく過程)が早まることを示した、とも書かれています。メスターはまもなくこの発見をヒトに応用し、治りにくい皮膚潰瘍のある患者の治療に使ったといいます[Chung 2012]。この分野の出発点として紹介されている流れです。

「LLLT」から「PBM」へ

Chung らの総説は、「はじめに」の節を「低レベルレーザー療法(LLLT)は、光バイオモジュレーションとも呼ばれ」という一文で始めています[Chung 2012]。2012年の時点で、すでに二つの名前が並んで使われていたことになります。

このうち、いま包括的な呼び名として使われているのが Photobiomodulation(PBM)です。日本語では光生体調節、光バイオモジュレーションなどと訳されます。2022年、ハンブリンとリーバートは「光バイオモジュレーション療法のメカニズム——シトクロムc酸化酵素を超えて」というエディトリアル(編集論評)を発表しました[Hamblin & Liebert 2022]。載ったのは『Photobiomodulation, Photomedicine, and Laser Surgery』という雑誌です。雑誌の名前そのものが「Photobiomodulation」を冠していることは、呼び名が移ってきたことの現れのひとつです。

このエディトリアルは、これまでしくみの研究の中心に置かれてきたシトクロムc酸化酵素(ミトコンドリアにある酵素で、複合体IVとも呼ばれます)だけでなく、それを超える複数の光受容体を視野に入れる方向を示しています[Hamblin & Liebert 2022]。呼び名の変化と、しくみの理解の変化が、同じ時期に並んで進んできたことがうかがえます。

では、なぜ呼び名が変わったのでしょうか。その理由そのものは、ここで根拠にしている資料からは断定できません。はっきり言えるのは二つです。LLLT という呼び名には「レーザー」という語が入っていること。そしていまは、PBM が LLLT を含む包括的な用語として使われていることです。

半世紀後の見取り図——2025年の総説

Son らは2025年、PBM の研究を病気の枠を超えてまとめたアンブレラレビュー(複数のメタアナリシスをさらに統合した総説)を『Systematic Reviews』誌に発表しました[Son 2025]。メタアナリシスとは、複数の試験の結果を統計的にまとめる方法のことです。

検索は五つのデータベースで行われ、2023年12月8日までが対象でした。集まったのは15のメタアナリシスです。そこには、204件のランダム化比較試験(RCT。参加者を無作為に振り分けて比べる試験)と、9,000名を超える参加者が含まれます。研究は32カ国・6大陸におよび、15の疾患条件にわたる35の健康アウトカムが扱われました。

結果はこうです。35のアウトカムのうち、有意な効果が示されたのは12でした。エビデンスの確実性は、修正版 GRADE という枠組みで4段階に評価されています。その分布は、中等度が17.1%(6/35)、低いが57.1%(20/35)、非常に低いが25.7%(9/35)でした。中等度の確実性で改善が支持されたものとして挙げられているのは、口腔灼熱症候群の疼痛軽減(eSMD −0.92、95%信頼区間 −1.38〜−0.46)や、線維筋痛症の疲労(eSMD 1.25、95%信頼区間 0.63〜1.87)などです。eSMD は、効果の大きさを共通のものさしにそろえた数値です。

同時に、著者ら自身が限界を挙げています。エガー回帰検定では、30件中6件(20.0%)に公表バイアス(良い結果が出た研究ほど発表されやすいという偏り)の統計的な兆候があったといいます。また、PBM のプロトコルはレーザーの波長・治療期間・セッション数の面で広く異なり、既存の標準プロトコルが存在しないことも書かれています[Son 2025]。著者らは、線維筋痛症、変形性関節症に関連する障害、認知障害への支持が最も強いとしました。そのうえで、「大半のエンドポイントで全体としてエビデンスの確実性が低〜中等度であることを考えると、広範な臨床導入の前に、より質の高い試験と PBM プロトコルの標準化が必要である」と結んでいます[Son 2025]。

毛を剃ったマウスの観察から、15のメタ分析・204件の試験をまとめる総説まで。半世紀のあいだに、研究の量は大きく変わりました。ただし、量が増えたことと、確実性が高まったことは別です。記事ごとに研究の状況をどう分類しているかは、編集方針に書いています。

この記事のまとめ


参考文献