レッドライトセラピー(赤色光療法)で当てた光は、ミトコンドリア(細胞の中でエネルギーを作る小さな器官)にある色素分子に吸収される——ここまではレッドライトセラピーとは何かで書いたとおりです。では、光が吸収されたあと、細胞では何が起きていると報告されてきたのでしょうか。研究で繰り返し取り上げられてきたのは、ATP(アデノシン三リン酸。細胞が動くためのエネルギー通貨)、活性酸素(ROS)、一酸化窒素(NO)という3つの変化です。この記事では、この3つに絞ります。

先にことわっておきます。ここで扱うのは培養細胞や動物を使った実験で、ヒトに当てて効果が確かめられたという話ではありません。

光を受け取る酵素

1999年、ロシア科学アカデミーの Tiina Karu は、可視光から近赤外光が細胞に及ぼす作用をまとめた総説を書いています。そのなかで Karu は、単色の赤色〜近赤外光を当てたときに光受容体(光を受け取る分子)になりうるものとして、シトクロムc酸化酵素(CCO。ミトコンドリアの呼吸鎖の末端にある酵素)を挙げました。Karu が挙げた一次メカニズムの候補は四つです。呼吸鎖の構成要素の酸化還元特性が変わること、スーパーオキシドアニオンの産生が増えて過酸化水素の濃度が上がることなどが挙げられています。その先には、pH・カルシウム・ATP レベルなどが連鎖する二次メカニズムが置かれています[Karu 1999]。

2005年、ウィスコンシン医科大学の Wong-Riley らが、この仮説を競合実験で調べました。ラットの視覚皮質から取った培養神経細胞に、CCO を不可逆的に阻害するシアン化カリウム(KCN)を加え、そこへ LED を当てるという設計です。670 nm(ナノメートル)の光(4 J/cm²、1回1分20秒、1日2回、5日間)を当てると、比較的低い濃度(10〜100 μM。μM は濃度の単位)の KCN で下がった CCO 活性が有意に回復しました。別の毒素(テトロドトキシン)で酵素の働きが下がった条件では、5つの波長を比べています。回復が大きかったのは 830 nm(対照の 111.7%)と 670 nm(約100%)で、最も小さかったのは 728 nm(27.5%)でした。回復の大きい波長は、酸化型 CCO が近赤外を吸収するスペクトルと一致しています[Wong-Riley 2005]。なお、ここに挙げた照射条件は培養細胞の実験のもので、人が機器を使うときの目安ではありません。

① ATP——エネルギー通貨の変化

Wong-Riley らは同じ実験で ATP の量も測っています。低い濃度(10 μM)の KCN では、光を当てた細胞の ATP 量が対照の 98.4% まで戻りました。ただし 100 μM では 74.5% から 83.5% への変化にとどまり、それより高い濃度では回復していません(統計的に有意な回復が示されたのは 10 μM のときだけです)[Wong-Riley 2005]。条件しだいで結果が変わる、という但し書きつきの観察です。

2004年、Eells らは赤色〜近赤外(630〜1000 nm)の光をめぐる総説を書いています。そのなかで、近赤外 LED を当てると培養した初代ニューロンで CCO の産生が増え、代謝阻害剤で下がった CCO 活性が回復したと報告しました。遺伝子を網羅的に調べたマイクロアレイの解析では、ミトコンドリアのエネルギー産生と、酸化から細胞を守る経路で、遺伝子の働きが有意に高まっていました[Eells 2004]。

なぜエネルギー産生が上がりうるのか。Poyton と Ball は2011年の総説で、一部の波長の近赤外光が CCO の反応の回転速度を速め、呼吸鎖を流れる電子の輸送が速まることで ATP の合成速度が上がりうる、と提案しています[Poyton & Ball 2011]。

② 活性酸素(ROS)——害だけではない、という整理

活性酸素(ROS)は、酸素が不完全に還元された分子の総称で、スーパーオキシド、過酸化水素、ヒドロキシルラジカルなどを指します。Poyton と Ball の説明では、これらは CCO が酸素を水に変える反応の途中で生じ、ふだんは酵素の内部の反応中心に閉じ込められています。

二人はさらに、光が CCO の酸化状態を変えると反応中心の形が変わり、ROS が外に出て細胞の信号経路で働きうる、と提案しました。同時に、電子の輸送が速まれば、呼吸鎖の複合体 I と III から出る ROS はむしろ減ると予想される、とも書いています。どちらも「起こりうる」「予想される」という書き方で、確かめられた事実として述べているわけではありません[Poyton & Ball 2011]。Hamblin も2017年の総説で、光の吸収に続く二次的な変化として、ATP や NO の増加と並べて「ROS の短時間のバースト」を挙げています[Hamblin 2017]。

なお、光の量が多すぎると、細胞を後押しする変化が消えて逆に抑える側へ変わることが観察されており、その説明の候補のひとつとして過剰な ROS が挙げられています[Huang 2009]。量の話は用量の考え方で扱っています。

③ 一酸化窒素(NO)——外れる光と、作らせる光

一酸化窒素(NO)は、体の中で信号として働く小さな分子です。CCO との関係では、向きの違う2つの報告があります。

ひとつは「外れる」ほうです。Hamblin は2017年の総説で、CCO が光子を吸収したときに酵素活性・酸素消費・ATP 産生が増える理由として、もっとも支持されているのは阻害性の NO の光分解(photodissociation。光で結合が外れること)だ、と書いています。NO は CCO のヘム(鉄を含む部分)と銅の中心に非共有結合でゆるく結びついており、1:10 の比で酸素と競合的にその場所をふさぎます。比較的低いエネルギーの光子でもこの NO は外せる、外れれば呼吸が進む、という説明です[Hamblin 2017]。

もうひとつは「作らせる」ほうです。Ball と Castello、Poyton は2011年、酵母とマウスの脳から取り出したミトコンドリアの CCO が、亜硝酸から NO を作る働き(Cco/NO)を持つことを示しました。低強度の広帯域光を当てると、この働きは光の強さに応じて高まった一方、CCO による酸素消費は変わらなかったと報告しています。この刺激が最大になったのは、中心波長 590 ± 14 nm の光でした(この波長は赤ではなく、黄〜橙色の帯域にあたります)[Ball, Castello & Poyton 2011]。

前者は CCO についていた NO を光が外す話、後者は CCO が NO を作る働きを光が強める話で、別々の道筋です。

動物ではどこまで観察されているか

細胞で見えた変化を、生きた動物の組織で調べた例もあります。2003年、Eells らはラットのメタノール中毒モデルを使いました。メタノールの毒性代謝物であるギ酸は、CCO を阻害します。メタノール投与から5・25・50時間後の三回、670 nm の LED を1回2分24秒ずつ(28 mW/cm²、4 J/cm²)当てました。網膜電図(ERG)で測った桿体・M錐体の最大振幅は、対照が 65 ± 5 μV、メタノール中毒群が 18 ± 5 μV(約28%)だったのに対し、LED を当てた群は 47 ± 8 μV(72%)でした。血中のギ酸濃度は両群で同等だったため、毒物の代謝が変わったことによる結果ではない、と著者らは述べています[Eells 2003]。ここに挙げた数値は、細胞で見えた変化が組織のはたらきにも及ぶかを調べた動物実験の結果です。ヒトでの効果や、人が機器を使うときの目安を示すものではありません。

言えることと、言えないこと

ここまで挙げたのは、培養細胞と動物で観察されたことと、そこから提案されている説明です。ヒトで何が起きるかは、別に確かめる必要があります。受け取り手をめぐる議論も続いています。Hamblin と Liebert が2022年に発表した論説の題は「光バイオモジュレーション療法のメカニズム——シトクロムc酸化酵素を超えて」で、CCO を中心に置いたモデルから、複数の光受容体を視野に入れたモデルへの転換を示しています[Hamblin & Liebert 2022]。3つの変化は、確定した道筋というより、いま組み上がりつつある仮説の骨組みです。

この記事のまとめ


参考文献