レッドライトセラピー(赤色光療法、学術的には Photobiomodulation=光生体調節)の歴史は、「髪」の観察から始まりました。最初の報告と、そのあと毛髪を対象に行われた研究が何を測ってきたのかをまとめます。光が肌に届くしくみは光が肌にはたらくしくみ、美容分野の全体像は赤色光と美容——しわ・ニキビ・髪の研究地図で扱っています。
1967年、剃られたマウスの背中
Chung らの2012年の総説は、この分野の始まりを次のように書いています[Chung 2012]。低出力レーザー療法(LLLT)が今の形になりはじめたのは、1960年のルビーレーザーと1961年のヘリウム-ネオン(HeNe)レーザーが発明された直後でした。1967年、ハンガリー・ブダペストのセンメルワイス大学で研究していたエンドレ・メスター(Endre Mester)は、毛を剃ったマウスの背中にレーザー光を当てました。すると剃った部分の毛が、剃っていないマウスよりも早く生え揃うことに気づきます。
メスターは、HeNe レーザーがマウスの傷の治りを早めることも示しました。そしてまもなく、この発見をヒトに応用し、治りにくい皮膚潰瘍の治療にレーザーを使いました。
この観察は、1968年にドイツ語の論文として発表されました[Mester 1968]。ただし、このサイトが参照しているデータベースでは原文が手に入らず、PubMed にも抄録がありません。波長や出力といった照射の条件は確認できていません。ここに書いた内容は、Chung らの総説の記述にもとづいています。
毛髪密度をまとめた2019年のメタ分析
ヒトを対象にした研究をまとめたものに、Liu らの2019年のシステマティックレビュー・メタ分析があります[Liu 2019]。成人の男性型・女性型脱毛症(AGA)に低出力レーザー療法(LLLT)を使った8つの研究、計11件の二重盲検ランダム化比較試験を統合しています。ただし、家庭用の機器で多く使われる LED と同じ光源を調べたとは限りません。この点は、あとで触れる Glass らの指摘とあわせて読む必要があります。
毛髪密度は、低出力レーザーを当てたグループのほうが、光を当てていないように見せかけた対照(シャム)より有意に増えたと報告されました(SMD 1.316、95% 信頼区間 0.993〜1.639)。SMD は標準化平均差のことです。測定方法の違う研究の結果をそろえて、効果の大きさを比べるために使います。
興味深いのは、照射の頻度による違いです。低頻度のグループ(SMD 1.555、95% CI 1.132〜1.978)のほうが、高頻度のグループ(SMD 0.949、95% CI 0.644〜1.253)より増加が大きくなりました。著者らは、この結果が「低い治療頻度のほうが高い治療頻度よりも良い毛髪成長効果をもつ」ことを示唆すると述べています。機器の種類と治療コースの期間は、有効性に影響しなかったとも書いています。
ただし、参照できるのは抄録だけです。波長・照射強度・照射量は書かれておらず、「低頻度/高頻度」が週に何回を指すのかもわかりません。「週何回がよい」という数字は、この研究からは言えません。
幅広い分野をまとめた検証での位置づけ
Son らは2025年、PBM の効果をいろいろな分野にまたがって検証したアンブレラレビュー(メタ分析をさらに束ねて評価するもの)を報告しました[Son 2025]。15件のメタ分析、204件のランダム化比較試験、9,000名を超える参加者をもとに、35のエンドポイントを評価しています。
そのうち、GRADE という枠組みで「中等度の確実性」と評価され、かつ有意な効果が示されたエンドポイントのひとつが、男性型脱毛症の毛髪密度でした(eSMD 1.32、95% CI 1.00〜1.63)。残りの大半のエンドポイントは、結果のばらつきや小規模な研究の影響があり、確実性は低いか非常に低いとされています。著者らは、より質の高い試験と、PBM の手順の標準化が必要だと結論づけています。
総説が挙げる限界と、読むときの注意
Glass の2021年の総説は、皮膚の若返り、ニキビ、創傷治癒、ボディコンタリング、男性型脱毛症について、臨床の文献をレビューしたものです[Glass 2021]。このうち皮膚の若返り、ニキビ、脱毛症、そしてとりわけボディコンタリングでは、低エネルギーの赤色・近赤外光を支持する「合理的な量の臨床試験エビデンスが存在する」としています。一方で、方法の弱さ、患者数の少なさ、業界(メーカー側)からの資金という問題があり、エビデンスの質を高める余地は大きいとも書いています。
さらにこの総説は、質の高い研究の多くがレーザー式の装置を使っていると指摘します。そして、LED の光源が同等の性質・大きさの生理的な効果を起こすかどうかは、まだわからないとしています。家庭用の機器の多くは LED です。そのため、この点は意識しておく必要があります。
ただし、こうした留保の一方で、Guo らの2025年の総説は、赤色光(630〜760 nm)が可視光のなかで深いところまで届き、瘢痕の治癒・毛髪の成長・皮膚の若返りを促すとまとめたうえで、LED の赤色光について、毛髪の数・密度・直径が増えたと報告した臨床研究があると述べています[Guo 2025]。
なお、ここで取り上げた研究は、いずれも男性型・女性型脱毛症を対象にしたものです。髪や生え際の状態全般を調べたものではありません。どれも研究の報告であって、特定の製品や使い方の効果を示すものではありません。
この記事のまとめ
- 始まりは1967年、メスターが観察した、毛を剃ったマウスの毛の生え方の違いでした[Chung 2012]。1968年の原論文は、原文も抄録も手に入っていません[Mester 1968]。
- Liu ら(2019)は低出力レーザー療法(LLLT)を扱った11件の二重盲検ランダム化比較試験を統合し、毛髪密度が有意に増えたと報告しました(SMD 1.316、95% CI 0.993〜1.639)。低頻度のグループ(SMD 1.555)のほうが高頻度(SMD 0.949)より増加が大きく、機器の種類と治療期間は有効性に影響しなかったとしています[Liu 2019]。
- Son ら(2025)のアンブレラレビューでは、男性型脱毛症の毛髪密度が「中等度の確実性」で有意とされたエンドポイントのひとつでした(eSMD 1.32、95% CI 1.00〜1.63)[Son 2025]。
- Glass(2021)は、方法の弱さや業界資金に加え、質の高い研究の多くがレーザー式で、LED が同等の効果を起こすかは不明だと指摘しています[Glass 2021]。
参考文献
- Chung H, Dai T, Sharma SK, Huang YY, Carroll JD, Hamblin MR. The Nuts and Bolts of Low-level Laser (Light) Therapy. Ann Biomed Eng. 2012;40(2):516-533. DOI: 10.1007/s10439-011-0454-7. PMID: 22045511
- Mester E, Szende B, Gärtner P. The effect of laser beams on the growth of hair in mice. Radiobiol Radiother (Berl). 1968;9(5):621-626. PMID: 5732466(ドイツ語、抄録なし)
- Liu KH, Liu D, Chen YT, Chin SY. Comparative effectiveness of low-level laser therapy for adult androgenic alopecia: a system review and meta-analysis of randomized controlled trials. Lasers Med Sci. 2019;34(6):1063-1069. DOI: 10.1007/s10103-019-02723-6. PMID: 30706177
- Son Y, Lee H, Yu S, et al. Effects of photobiomodulation on multiple health outcomes: an umbrella review of randomized clinical trials. Syst Rev. 2025;14:160. DOI: 10.1186/s13643-025-02902-3
- Glass GE. Photobiomodulation: The Clinical Applications of Low-Level Light Therapy. Aesthet Surg J. 2021;41(6):723-738. DOI: 10.1093/asj/sjab025. PMID: 33471046
- Guo Z, Yuan K. The Application of Light Emitting Diode (LED) in Cosmetic Dermatology. Photodermatol Photoimmunol Photomed. 2025;41(1):e70041. DOI: 10.1111/phpp.70041