肌に光を当てる研究を読んでいると、青色光、黄色光、赤色光、近赤外光と、いくつもの波長が出てきます。それぞれが別の話に見えるのは、波長によって肌のどこまで届くかが違うと考えられているからです。届いた先で何が光を受け取るのかも変わると考えられています。

ここで扱うのは、効果があるかどうかではありません。「なぜ肌に光がはたらくと考えられているのか」というしくみの部分だけを、論文に書かれている範囲でまとめます。ヒトで実際に何がどこまで測られたのかは、しわ・コラーゲンをめぐる臨床研究美容分野の全体地図のほうで扱っています。

皮膚は層になっている

皮膚は、外側の表皮と、その下にある真皮に大きく分かれます。しくみの話は、「どの層で何が起きているか」と「光がその層まで届くか」を重ねて読むと分かりやすくなります。

Avci らが2013年にまとめた皮膚の総説は、年齢を重ねた皮膚にみられる特徴として、コラーゲンの量の減少、コラーゲン線維の断片化、弾性線維の変性、タンパク質を分解する酵素であるマトリックスメタロプロテアーゼ(とくに MMP-1 と MMP-2)の増加、表皮の萎縮などを挙げています[Avci 2013]。しわやたるみとして見えている変化の下では、こうした変化が層ごとに起きている、という見方です。

波長ごとに届く深さが違う

Guo と Yuan は2025年の総説で、美容皮膚科で使う LED の光を波長帯ごとに分けて説明しています[Guo 2025]。

波長帯総説での深さの記述主に扱われてきたテーマ
青色光 400〜470 nm皮膚におよそ1 mm の深さまで浸透し、主に表皮を標的とするニキビ、皮膚バリアの修復
黄色光 570〜590 nm皮膚を通り抜けて真皮に達する肝斑、光老化
赤色光 630〜760 nm630〜700 nm は可視光のなかで最も深く浸透し、真皮全体に到達できる瘢痕の治癒、毛髪、皮膚の若返り
近赤外光 760〜1200 nm深さの具体的な記載はなし(下の Avci らの記述を参照)色素の異常、皮膚の老化、創傷治癒
波長ごとに肌へ届く深さの模式図。青色光(400〜470 nm)はおよそ1 mm で主に表皮、黄色光(570〜590 nm)は真皮に達し、赤色光(630〜760 nm)のうち630〜700 nm は可視光のなかで最も深く真皮全体に到達できるとされる。近赤外光(760〜1200 nm)は具体的な深さの記載はないが「さらに深く入る」とされる。
これは模式図です。層の厚みや矢印の長さは実際の縮尺ではありません。ここに示したのは届く深さの話であって、届いたから効く、という話ではありません(Guo 2025・Avci 2013 の記述にもとづく)。

なお、この帯の区切り(何 nm から何 nm までを「赤色光」と呼ぶか)は、文献ごとに少しずつ異なり、このサイトの他の記事で参照する総説とも数十 nm の幅で違いがあります。Avci らの総説も、同じ関係を別の切り口で書いています。光線療法で使われるのはおよそ390〜1,100 nm の波長で、390〜600 nm は表層の組織に、より波長の長い600〜1,100 nm は「さらに深く入る」ため深い部位に使われる、という説明です[Avci 2013]。

つまり「どの波長を選ぶか」は、まず「どの深さを相手にするか」の問題として語られています。ただし、これは届く深さの話であって、届いたから効く、という話ではありません。

光を受け取るのは細胞の何か

Avci らは、皮膚の細胞に当たった赤色光・近赤外光の光子が、ミトコンドリアの発色団(クロモフォア、光を吸収する分子)に吸収されると書いています。その中心に置かれているのが、ミトコンドリアの呼吸鎖にあるシトクロムc酸化酵素(CCO)です。総説では、この吸収によって CCO に結びついた阻害性の一酸化窒素が外れ、酵素の活性、電子の伝達、ミトコンドリアの呼吸、ATP(細胞のエネルギー通貨)の産生の増強につながる、と仮説の形で述べています。その先に、血流の変化、活性酸素の増加、シグナル伝達経路の活性化、幹細胞の活性化による組織修復が続く、という順序です[Avci 2013]。

受け取り手は CCO だけとは限りません。Hamblin が2017年にまとめた総説は、一次的な発色団として CCO とカルシウムイオンチャネル(オプシンという色素タンパク質による光の吸収が介在する可能性が指摘されています)を挙げています。二次的な変化は、ATP と一酸化窒素の増加、そして活性酸素の一時的な増加です。三次的な変化は転写因子の活性化と、それに続く細胞の生存・増殖・遊走・新しいタンパク質の合成です[Hamblin 2017]。Guo と Yuan も、LED の光が皮膚の光受容体(オプシン、ミトコンドリアのシトクロムc、クリプトクロムなど)と相互作用すると書いています[Guo 2025]。Hamblin と Liebert が2022年に発表した論説の題は「光バイオモジュレーション療法のメカニズム——シトクロムc酸化酵素を超えて」で、受け取り手の範囲は今も見直しが続いています[Hamblin & Liebert 2022]。

光が細胞に届いたあと、全身に共通して起きる流れは、レッドライトセラピーとは何かでも扱っています。ATP・活性酸素・一酸化窒素それぞれの実験の中身は、光が細胞で起こす3つの変化にまとめています。

線維芽細胞とコラーゲン

真皮には線維芽細胞(せんいがさいぼう)という細胞があり、コラーゲンを作る役割を担っています。赤色光と肌の話は、多くの場合この細胞を中心に語られます。

Guo と Yuan の総説は、光老化した皮膚にとっての利点として、赤色光の照射がコラーゲンと成長因子の発現を増やし、MMP のレベルを下げることが示されている、と書いています[Guo 2025]。Hamblin の総説にあった「新しいタンパク質の合成」という三次的な変化とも、向きとしては重なります。

ただし、同じ総説には逆向きの記述も並んでいます。赤色光はヒトの真皮線維芽細胞の増殖・コラーゲン合成・遊走を減らし、それによって抗線維化作用を示す、という瘢痕(傷あとの盛り上がり)の文脈での記述です[Guo 2025]。同じ波長の光でも、相手にする細胞の状態や目的によって、報告されている向きは変わりえます。

なお、ヒトで真皮のコラーゲン密度を超音波で測った対照試験もあり、光を当てたグループで測定値の差が報告されています[Wunsch 2014]。その設計と数値はしわ・コラーゲンをめぐる臨床研究で扱っています。

しくみが分かることと、効果が確かめられることは別

ここまでの内容は、「なぜ肌に光がはたらくと考えられているのか」の説明であって、効果の裏づけではありません。理由は3つあります。

第一に、しくみ自体がまだ確定していません。Avci らは、CCO から一酸化窒素が外れることを「仮説されている」と書き、細胞・分子レベルの基礎は完全には理解されていないと明記しています[Avci 2013]。

第二に、量の問題があります。Avci らは、波長・照射強度・フルエンス(照射量)・照射時間といった条件が研究ごとに大きく違うと指摘し、低すぎれば効果が下がり、高すぎれば組織の損傷につながりうるとしています。この性質は二相性用量反応と呼ばれ、Hamblin の総説でも目立つ特徴として挙げられています[Hamblin 2017]。Avci らが示している範囲は、フルエンス0.04〜50 J/cm²、パワー密度100 mW/cm² 未満です[Avci 2013]。

第三に、細胞や動物で観察された反応が、そのままヒトの肌の変化になるとは限りません。しくみの説明としてもっともらしいことと、ヒトで測って差が出ることは、別々に確かめる必要があります。

この記事のまとめ


参考文献