私たちの体には、およそ1日の周期でくり返す体内リズム(概日リズム、サーカディアンリズム)があります。眠気や目覚めのタイミングは、このリズムに左右されます。そして、リズムを合わせるいちばん大きな手がかりが「光」です。この記事では、光が目から体内時計へ届く道すじと、赤色光と睡眠を調べた研究の報告を取り上げます。

光は目から体内時計へ届く

光が体内リズムを動かすとき、入り口になるのは目の奥にある網膜です。網膜には、物を見るための細胞とは別に、光そのものを感じ取る特別な細胞があります。

Yuan らが2025年にまとめた総説は、この細胞を取り上げています。「内因性光感受性網膜神経節細胞(ipRGC)」と呼ばれる細胞で、メラノプシンという光を受け取る色素を持ちます。ipRGC は受け取った光の信号を、脳にある体内時計の中枢(視交叉上核、SCN)へ伝えます[Yuan 2025]。

Yuan らは、光が体内リズムを合わせるうえで環境からの手がかりのうち最も重要であり、なかでも青い波長の光がとくに強く働くと書いています。総説はさらに、現代の人工照明がこのしくみに与える影響、網膜の病気との関わり、光療法などの手立てにも触れています[Yuan 2025]。

つまり光は、肌に当たるだけでなく、目を通って体内時計そのものに働きかける経路も持っています。これが、これまでの研究でまとめられているしくみです。

赤色光を頭部に当てた睡眠の研究

赤色から近赤外の光を体に当てる方法は、光生体調節(Photobiomodulation、PBM)と呼ばれます。この光と睡眠の関わりを調べた研究のひとつが、Guu らが2025年に報告した試験です。

Guu らは、装着型の機器で頭部に光を当てる「経頭蓋光生体調節(t-PBM)」を調べました。対象は、うつ病(大うつ病性障害、MDD)の外来患者48名です。参加者は、本物の光を当てるグループと、見た目は同じでも光を当てない「シャム(偽の処置)」グループに1対1で分けられました。二重盲検といって、参加者も評価する側も、どちらのグループかを知らされない方法です[Guu 2025]。

機器は参加者自身が、1日20分以上、8週間にわたって使いました。うつの症状を測る指標(HAMD、BDI)は、どちらのグループも開始時より下がり、グループ間の差はありませんでした。一方、睡眠の質を測る指標(ピッツバーグ睡眠質問票、PSQI)が下がったのは、光を当てたグループだけでした。2週目以降に開始時を下回り、グループ間の差は12週目まで続いたと Guu らは報告しています(F1,46 = 6.16、p = 0.017)。PSQI は、点数が下がるほど睡眠の質がよいと判断される指標です[Guu 2025]。

なお、この報告の抄録には、使われた光の波長や強さ、効果の大きさそのものは書かれていません。抄録からわかるのは、うつの指標では両グループに差がなかったこと、睡眠の指標では光を当てたグループで変化が観察されたことまでです。

読むときに気をつけたいこと

Guu らの研究は参加者48名という規模で、対象はうつ病の外来患者でした。健康な人や別の条件でも同じ変化が起きるかどうかは、この1本の研究だけでは分かりません。うつの指標では両グループに差がなかったことも、見落とせない点です。うつ病そのものを対象にした試験の流れは、赤色光・近赤外光とうつ・認知にまとめています。

Yuan らの総説は、人を対象に効果を測った試験ではありません。これまでの研究をまとめ、しくみを説明したものです。光と体内リズムの関係を理解する土台にはなりますが、特定の機器や使い方の効き目を示すものではありません。

光と眠りの関係には、目から入る光の経路と、体に当てる光の作用という別々の側面があります。研究ごとに対象も方法も違います。ひとつの結果をそのまま一般化せず、どんな条件での話なのかを確かめながら読むとよいでしょう。

この記事のまとめ


参考文献