頭の外から当てた光は、気分や頭の働きに関わるのか。それを調べたヒトの試験が報告されています。

レッドライトセラピー(赤色光療法)は、赤色から近赤外の波長の光を体に当てる方法です。学術的には光生体調節(Photobiomodulation、PBM)と呼び、頭部の外から当てる方法は経頭蓋光生体調節と呼びます。基本的な考え方はレッドライトセラピーとは何かで説明しています。

うつ病は医療の領域にある病気で、診断も治療も医師が行うものです。この記事で書くのは、研究が何を測り、どこで結果が分かれたかです。受診や治療に代わるものではありません。ここで取り上げるのは、研究で使われた装置による試験や測定です。市販の機器で同じことが起きるかを調べたものではありません。照射の条件も各試験のもので、人が機器を使うときの目安ではありません。

光はどこまで届くのか

マウス・ラット・ウサギ・ヒトの4種の頭蓋骨に 800 nm(ナノメートル)の光を 700 mW/cm²(光の強さ)で当てた実験があります。測定は ex vivo、つまり体から取り出した状態で行われました。乾燥させた動物の頭蓋骨を通り抜けた割合は、マウス40.10%(厚さ 0.44 mm)、ラット21.24%(0.83 mm)、ウサギ11.36%(2.11 mm)でした。動物の頭蓋骨に水を含ませると、この割合は上がっています。ヒトでは、厚さ 7.19 mm の部位で4.18%、5.91 mm の部位で4.24% でした。著者らは、頭蓋骨が厚いほど透過率が下がる関係を示し、ヒトの頭蓋骨の特性を組み込んだ見直しが必要だと示唆しています[Lapchak 2015]。

保存処理をしていない(未固定の)ヒトの頭部標本8体を測った実験では、808 nm の光が頭皮・頭蓋骨・髄膜・脳を通り、およそ 40 mm の深さまで届きました。ただし著者らは、保存処理をしていない標本は生きた状態の条件をすべて反映するものではないとも記しています[Tedford 2015]。

脳を対象にした総説は、よく使われる波長帯として 800〜1100 nm、なかでも 810 nm を挙げています[Hamblin 2016]。

10名から始まったうつ病の試験

うつ病(大うつ病性障害)の10名を対象に、左右の前頭部への照射と偽の処置(プラセボ)を組み合わせ、4分間の処置を4回行った試験があります。使った光は 810 nm の近赤外 LED で、当てた光の総量は 60 J/cm² です。

2週後には、ハミルトンうつ評価尺度で10名中6名、不安の尺度で10名中7名が寛解(症状が大幅に改善した状態)に達しました。平均点は、うつで13.20点、不安で14.90点下がっています。4週後の低下は、うつ6.50点、不安9.00点でした。有害事象はなかったと記されています(10名を4週間追った範囲の記録です)。

近赤外分光法(光で脳の血流を測る方法)で測ると、血流は増える傾向を示しましたが、統計的な有意差はありませんでした。この試験はオープンラベル(参加者がどの処置か分かる)の被験者内比較で、独立したプラセボ群は置かれていません。著者ら自身が、より大規模な二重盲検の試験が必要だと結んでいます[Schiffer 2009]。

二重盲検で比べた最初の試験

同じ研究の流れから、うつへの経頭蓋照射として最初の二重盲検シャム対照試験が報告されました。シャムは光を出さない同じ形の装置で、二重盲検は参加者も評価者もどちらの群か知らされない方法です。

21名がランダムに割りつけられました(本物10名・シャム11名)。823 nm の連続波を両側の前頭前皮質(額の奥の脳の領域)に当て、週2回・8週間続けています。照射は、既存の治療に加える補助として行われました。光の強さは 36.2 mW/cm²、当てた光の総量は最大 65.2 J/cm² です。主要な評価項目は、ハミルトンうつ評価尺度17項目版の合計点の変化でした。

効果の大きさ(違いの大きさをそろえて表す数値)は、解析の対象の取り方によって三通り報告されています。割りつけられた21名全員を含める解析で 0.90、最後に測定できた値をそのまま用いる19名の解析で 0.75、最後まで参加した13名だけの解析で 1.5 です。数値がいちばん大きいのは、いちばん人数の少ない13名の解析でした。論文の結果欄には、21名全員の解析と13名の解析について、本物の群のほうが改善が大きく統計的に有意だったと書かれています(p=0.047、p=0.031)。19名の解析については、有意差の数値が示されていません。

重篤な有害事象はなかったと記されています(8週間の試験での記録です)。著者らは、人数が少ないため追試が望まれると結んでいます[Cassano 2018]。

多施設の試験では差が出なかった

続いて、複数の施設が参加したランダム化二重盲検シャム対照試験が行われました。解析の対象は49名です。830 nm の光を1回あたり20分、両側の前頭前皮質へ週2回・6週間当てました。光の強さは 54.8 mW/cm²、当てた光の総量は 65.8 J/cm² です。主要な評価項目は2つで、ハミルトンうつ評価尺度17項目版と、うつ症状を医師が評価するもう一つの尺度でした。

どちらの尺度でも、光を当てた群とシャム群に有意差はありませんでした(P=.751/P=.620)。

論文の題は、この試験の光を「きわめて低いレベルの」ものと書いています。これは論文の題での表現で、この記事に出てくる他の試験と光の量を比べた結果ではありません。著者らは、有効性のためには最低限の用量の閾値が必要だろうと述べています[Iosifescu 2022]。この結果は「うつに光は効かない」という一律の結論ではなく、この試験が調べた用量の条件についてのものです。

11試験をまとめたメタ分析

3,265件から選ばれた11件のランダム化比較試験をまとめた分析では、光生体調節がうつ症状を和らげたと報告されています。効果の大きさは標準化平均差(測定方法の異なる研究の結果をそろえて比べるための数値)で -0.55(95% 信頼区間 -0.75〜-0.35)でした。これは中等度にあたる大きさです(数値がマイナスなのは、症状の点数が下がる向きを表すためです)[Ji 2024]。

まとめられた11件には、頭蓋を通して脳に届かせることを狙った照射と、頭皮に当てる照射の両方が含まれています。この二つは当てる光の総量が大きく違います。この分析が最も改善が大きかったとする条件は、前者が 10〜100 J/cm²、後者が 1 J/cm² 以下でした。サブグループごとの分析では、頭皮に当てる方法のほうがうつ症状の緩和で優れていたと報告されています。(これらも試験で使われた条件で、人が機器を使うときの目安ではありません。)-0.55 は頭蓋を通す方法だけの数値ではなく、頭皮のほうが常に優れているという一般化でもありません。

副次的な評価項目だった睡眠には、統計的な有意差がありませんでした。ただし、この分析が集めた11件は2023年9月25日までに検索されたもので、それ以降に報告された試験は入っていません。光と眠りについては赤色光と睡眠で別に扱っています。エビデンスの強さは中等度から非常に低いと評価され、著者らは試験の数が少なく、さらなる研究が必要だと述べています[Ji 2024]。

健常な人の認知を測った試験

健常なボランティア40名を照射群とプラセボ群に20名ずつ分けた対照試験では、額に赤外のレーザーを当てました。プラセボ群と比べて有意に改善したと報告されたのは、持続的な注意を測る課題での反応時間、そして記憶の課題で思い出すまでの時間と正答した試行の数です。気分の状態を測る尺度については、光を当てた群で全体的な感情が有意に改善したと報告されています。ただし抄録には、当てた光の波長も出力の値も、改善の大きさを示す数値も書かれていません[Barrett 2013]。

3年後には、健常な若年成人60名を照射のみ・運動のみ・併用・シャムの4群に分けた試験が報告されました。照射は 1064 nm の連続波で、1部位あたり 60 J/cm² です。照射も運動も、注意の課題では反応時間を縮め(p=0.01)、記憶の課題では正答数を増やしました(p=0.005)。著者らは、両者が認知の向上に同程度に有効だと結論しています。光のほうが優れていたとも、どちらかが代わりになるとも報告されていません[Hwang 2016]。

用量で分かれた二つの報告

一つは、認知機能が正常な高齢者25名を低用量・高用量・シャムの3群に分けたランダム化比較です。低用量は頭に 26 J/cm²・鼻に 9 J/cm²、高用量は頭に 52 J/cm²・鼻に 18 J/cm² を当てています。抄録が報告するのは高用量の群とシャムの群の比較で、脳の離れた領域どうしが連携して働く度合いが増え(p=0.0016)、目で探す課題と処理の速さが有意に改善しました(p=0.012)[Joshi 2024]。

もう一つは、健常な高齢者88名を44名ずつ二つの群に分けた研究です。当てた光の総量は、単一用量群が 10.8 J/cm²、二重用量群が 21.6 J/cm² で、光を当てない群は置かれていません。脳の血流を光で測る方法で認知効率(少ない脳の働きで同じ成績を出せる度合い)を評価したところ、課題がいちばん難しい水準で有意に大きな改善を示したのは単一用量の群でした(p=0.021、効果の大きさ 0.50)。作業記憶(短い間、情報を頭に置いて使う働き)の課題の成績にも、向上が報告されています(p=0.045、効果の大きさ 0.31)。著者らは、より高い用量が高齢者の認知の改善で必ずしも優れた結果をもたらすとは限らないと述べています[Lee 2024]。

ここで挙げた健常な人の試験は、どれも一つずつの報告です。この節の照射条件も各試験のもので、人が機器を使うときの目安ではありません。光の量をどう考えるかは用量の考え方で扱っています。

読むときに残ること

並べてみると、結果の向きはそろいません。小規模な試験では改善が報告され、多施設のより大きな試験では主要な評価項目に差が出ませんでした。健常な人の認知でも、光の量と結果の関係は試験によって違います。対象・波長・光の量・期間もそろっていません。

研究の側から出ているのは、有効性には最低限の用量の閾値が必要だろうという見立て[Iosifescu 2022]と、動物で最適化された条件をそのままヒトに当てはめられないという指摘[Lapchak 2015]までです。条件の違いが結果の違いを生んだと確かめられたわけではありません。

うつ病は医療の領域にある病気です。ここで取り上げたのは研究の報告であって、診断や治療に代わるものではありません。気分の落ち込みや不安が続くときは、医師などの専門家にご相談ください。研究がどの段階にあるかの表示については編集方針にまとめています。

この記事のまとめ


参考文献